441
これは1935年に書かれたハルムスの作品です。
目次の便宜上「宴」という題名をつけてはいますが、これは私が勝手につけた題名で、現詩は無題です。描写のみで出来ている絵画的な詩で、読めばヤン・ステーンの風俗画に出てくるような、猥雑で騒音に満ちた、快楽と混沌の宴が頭に浮かんでくると思います。ハルムスがどういう意図でこの退廃の言語的絵画を創作したのかは不明ですが、寓話的にも読めるし、または反対に快楽賛歌的に読め、あるいはたんなる情景描写としても読んでもよく、判断は受け取る側次第であるという点もまた、絵画的であるといえます。
ハルムスの作品の中には、私が仮に「不穏系」と名付けている作品群が存在します。この「宴」もおおかた不穏系の類でしょうが、児童文学者という表向きの顔に隠れた、ハルムスのパンクな一面が顔を覗かせています。
お客さんたち 楽しげに 宴をはる
テーブルの向こうに座ってる 一団となって
お客さんたち 楽しげに 宴をはる
そして一団となって テーブルの向こうに座ってる
そして 牛肉を食べる
そして ガブガブ 果実酒を呑む
そして テーブルの下で 何やらやらかす
ご婦人たちに お脱ぎなさいよと誘いかける。
いっぽうご婦人たちは、トラ、ラ、ラ、踊っている
音楽にのって ちょいとお辞儀。
お客さんがひとり テーブルの上によじのぼったもんだから
風呂場にひっぱられていっちゃった。
女主人は コルセットのホックをはずし
そこらじゅうを跳ね踊った。
作曲家 ヴァーニャ・コノフは
女主人のスカートのすそをつかもうとして
バランスを失い
床の上に転がった。
いっぽうニーナ・ペトゥホーヴァは
パンツを脱ぐなり
セミョーン・パルキンに匂いをかがせた。
(1935)